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2018

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2018.10.31

“かまどごはんの食感をよみがえらせた”
三菱電機 〈三菱IHジャー炊飯器〉「本炭釜 KAMADO®

内釜底部のコイルベースにDURAFIDE®PPSを採用。

おいしいごはんを得るためには、炊き方が重要です。かまどで炊いたごはんがおいしいことはよく知られていますが、もう日本の台所にかまどのあるところはほとんどありません。ごはんは、現在では炊飯器で炊くのがあたりまえになっています。そのため、かまど炊きごはんに近づいた炊飯器が期待されていました。
三菱電機では、炭を削って仕上げた内釜を使った IH 炊飯器「本炭釜®」を10年前に開発、発売して来ましたが、昨年10周年を記念して、さらに進化した「本炭釜 KAMADO®」NJAW106形を製品化しました。

これまで炊飯器で再現するのは難しいとされていた「かまどごはん」の食感をよみがえらせることができました。かなりの高価格にもかかわらず、売れ行きは好調とのことです。この「本炭釜 KAMADO」内釜の下のコイルベースという部品にジュラファイド® PPS が使われています。
「本炭釜 KAMADO」開発の経緯、その特徴などについて、製造会社の三菱電機ホーム機器株式会社 家電製品技術部 調理機器技術課 グループリーダー 根岸和善氏、藤田善行氏、製造管理部 工作技術課(現在 資材部 外注課) 竹内 聰氏にお伺いしました。

「かまどごはん」の食感をどう実現するか 

「かまどごはん」のおいしさを炊飯器で実現するためには、なぜかまどで炊いたご飯がおいしいのか、そのわけを知る必要があります。おいしさをきちんと科学的に解明し、それをどう実現するかというプロセスが必要です。これまでごはんの食感は硬さとねばりで評価されていました。これはもちろん重要なのですが、さらにごはんのみずみずしさ(含水率)に着目しました。水が多いとごはんは柔らかくなりますし、少ないと硬くなります。しかし、「かまどごはん」は、炊飯器よりもみずみずしさ(含水率)は高いものの硬さを維持しています。しっかりとした粒感があってみずみずしいのです。
では、それがなぜかまど炊きでは実現できるかですが、かまど炊きは高火力短時間で一気に炊き上げます。火力が低い状態で、長い時間かかって炊くと、どうしても柔らかく、水分を含んだべたべたした感じのごはんになってしまいます。ですから、かまど炊きに近い炊きあがりにするためには、大火力が必要となります。

大火力を実現するために

しかし、ただ単に大火力にすればよいというものではありません。大火力で炊くと、どうしてもふきこぼれが起きてしまいます。どこまで高温に上げられるのか、炊飯器の限界が出てきますので、それをどうやってブレークスルーするかが課題でした。
IH 炊飯器は、底面に誘導加熱用のコイルが巻いてあり、これが磁界を発生して釜を発熱させます。通常は外側がステンレスや鉄といった金属の釜を使いますが、三菱電機では10年前から、内釜全体に炭素材料を使っています。また、側面と上面にもヒーターがあり、内釜を包み込むように加熱し、大火力を実現しています。

■内釜の発熱比較 ※赤色が発熱部分

本炭釜®(最大厚10mm までそのまま発熱)

金属多層釜(0.25mm 程度の外表面発熱)

■本炭釜の製造工程

最高約3000℃で焼成した純度99.9% の炭を、一品一品職人が丹精を込めて削り出します。
内釜が完成するまで約100 日を要します。

〈磁力線の浸透深さ(発熱厚み)は、浸透深さの計算式に基づき当社にて算出。炭の熱伝導率は本炭釜素材の当社測定値、ステンレスはステンレス協会発行「改訂 ステンレスの初歩」より、鉄は機械工学便覧より引用(三菱電機株式会社調理器具カタログより)。〉

●炭素材料の内釜…内釜全体が発熱し遠赤外線効果・熱伝導も高い

大火力が実現できたのは内釜の素材として炭素材料を使ったことによります。IH加熱では金属を使うことが多いのですが、IH加熱で浸透する磁力線の深さは金属の場合、たとえばステンレスでは表面の0.25mm程度しかなく内釜の外側しか発熱しません。ところが、炭は磁力線の浸透が深いことが特徴で、最大10mm まで内釜の厚み全体が発熱します。しかも、炭は金属よりも熱伝導度が高く、発熱した熱が伝わりやすい、という特徴もあります。「本炭釜 KAMADO」の内釜は、最高約3,000℃で焼成した純度99.9%の炭素材料を、職人さんが手作業で削り出して作ったもので、完成まで約100日かかる、といいます。

●羽釜形状…うまみを閉じ込める連続沸騰

昔ながらのかまど釜は図にように真ん中に羽があり、上下に分かれている羽釜形状をしています。羽から下の部分はかまどにすっぽり覆われますが、上の部分は外気に直接触れています。
羽より下の部分はかまどの中で直接加熱されますから、高温を維持し、連続沸騰で米と水を最大限の火力で加熱し、うまみを引き出します。上の部分は、激しい沸騰状態で生じる泡やおねばをしっかり受け止め、うまみを閉じ込めます。かまど釜の蓋が厚くて重い木製なのは、うまみを閉じ込めるためです。また、上の部分は外気に触れているため、その温度も若干下がり、吹きこぼれの勢いが弱くなる、といった利点も生まれます。
このような理由から、「本炭釜KAMADO」では、炭素材料の内釜を羽釜形状としています。また、内釜の総体積を10数%大きくし、羽釜同様、高い火力でも吹きこぼさずにごはんが炊けるようにしました。

●高断熱構造を活かした「実りの形」

本体の形状も大火力を維持し、熱をなるべく逃がさないよう、下部が若干膨れた構造としました。旬になって熟れた果実や手のひらで握ったおにぎりのようなおいしさを視覚で伝える新デザインで「実りの形」と呼んでいますが、デザインだけでなく、高断熱を活かす構造を盛り込んでいます。これまでは、側面ヒータ-の外側にのみ断熱材を搭載していましたが、「本炭釜 KAMADO」では本体下部に膨れた空間を設けて、発泡メラミン樹脂10mmの断熱材を追加することでさらなる高断熱性を実現しました。これにより、熱の拡散を防ぎ、本体表面部分の温度上昇も抑えることができ、羽釜形状との相乗効果で大火力が実現できました。
また、シリコ-ンゴム製の「熱密封リング®」で、本体と内釜の羽下部分との隙間をなくし、熱を逃がさず、効率よく加熱します。さらに放熱板、本体胴回りにも炭コートを採用、効率よく加熱するよう設計されています。
本体下部が若干膨れた「実りの形」の形状は、一体の部品で成形するのは難しく、通常の金型構造では、成形品を取り出すことができないため、金型メーカーと何度も協議し、金型構造の工夫によってABS樹脂で一体化した構造を実現しました。

コイルベースにDURAFIDE®PPS

従来以上の大火力が実現できると、これまで使っていた材料では、熱的に問題があるところが出てきます。従来PET 樹脂を使っていたコイルベースも同様でした。そこで採用されたのが、ジュラファイド PPS でした。
コイルベースは、電気絶縁物としての扱いになるため、社内規格によりJET(電気安全環境研究所)のCMJ 登録が必要でした。絶縁物使用温度の上限値の確認では、従来のPET樹脂が150 ~ 160℃であったのに対し、PPS では180 ~200℃となりました。高火力を実現するため、コイルベースの温度は170℃近くに上がるのですが、PPS によって、それに耐えることができるようになったわけです。
使用したのはガラス繊維・無機フィラー強化グレードです。耐熱性はもちろんですが、外観が見える場所でもあるため、外観性のよいものをという点も採用条件となりました。一般にガラス繊維強化の材料では、ガラスの配向など、成形加工では難しい面も多いといいます。形状、意匠の点から、ゲートの位置が限られてしまうため、単に流しただけでは、外観、耐衝撃性などに問題が生じる懸念もあり、成形法、最終的なグレードの選定に至るまでにはトライ&エラーを繰り返しながらの挑戦でした。
PET 樹脂より高温の金型温度が必要だということはわかっていましたが、当初はそのための設備が十分には整っておらず、最初は苦労したといいます。設備を整え、成形技術を確立するとともに、最終的には高流動グレードを採用することよって、外観性をクリアすることができました。

これまでのPET樹脂コイルベース

DURAFIDE® PPSコイルベース(裏・表)

●「本炭釜 KAMADO®」の効果

このようにして実現できた大火力による「本炭釜 KAMADO」にはこれまでにない特徴を持たせることができました。
炭素素材の内釜による内釜全体発熱・内釜羽釜形状による連続沸騰・実りの形デザインによる高断熱構造により、お米の芯まで加熱でき、粒がきわだち、みずみずしいごはんを炊き上げることができます。
また、多彩な炊き分けメニューを搭載しているのも特徴です。日本全国の代表的なお米23種類の個性を引き出す「銘柄芳潤炊き」® モードがあり、お米の個性を楽しみながら、ごはんを味わうことができます。さらに、玄米炊き、発芽米炊き、など、炊き方を変えて楽しむことのできるメニューも多数そろっています。

究極の炊飯器ともいえる「本炭釜 KAMADO」ですが、「味の追求はもちろん続けなければなりませんし、同時に使い勝手を考えるなど、まだまだやらなければならないことはあります」(根岸グループリーダー)と話しておられました。

●付属の「しゃもじ」はユニバーサルデザインに対応

付属品として「しゃもじ」がついています。一見するとただの「しゃもじ」ですが、柄の部分に溝が刻まれていて、その溝にリングをつけることができます。視覚障害者の方が水量調節をするときに、「しゃもじ」を内釜の内側に立ててどこまで水を入れればよいかが、リングにさわることで容易にわかるようにと設けたものです。
また、スイッチの目安になる点字シールがあり、本体に貼り付けて使用できるようになっています。この専用リングと点字シールは希望者に無料で配布しています。
こうしたかたちで、視覚障害者の方にも使いやすいユニバーサルデザインによるものづくりを進めています。もちろん高齢者にも配慮した主要操作ボタンのデカ文字表示や音声ナビ、液晶部へのバックライト搭載など、多くの配慮がなされているのは言うまでもありません。

■「本炭釜KAMADO®」、「本炭釜®」、「熱密封リング®」、「銘柄芳潤炊き®」は三菱電機株式会社の登録商標です。
 「DURAFIDE®」、「ジュラファイド®」は、ポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有する登録商標です。