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2018

Technology

2018.10.31

ポリプラスチックス製品による金属樹脂接合技術の適用提案

はじめに

エンジニアリングプラスチック(以後、エンプラ)は、自動車部品、電気・電子製品、その他多くの工業製品において金属素材を代替することで軽量化に貢献してきました。今日においては単純に金属素材をエンプラに置換えるのではなく、一部に金属素材を残し、残りをエンプラで置換えるといった金属樹脂複合部材が数多く生産されています。金属樹脂複合部材には、金属素材が持つ特性(例えば高剛性、電気導電性など)とエンプラの特性(例えば低比重、電気絶縁性など)を同時に利用することができる優位点があります。しかし一方で、二つの素材の間には接合界面が存在するため、その接合力や気密性が必要とされる場合には技術的な難易度が高くなります。
金属樹脂複合部材を製造する方法として、従来は単純なインサート成形、またはかしめ、ねじ止めによる物理的な嵌合や、接着剤による接合、ポッティング剤による封止などが行われてきました。ただし、単純なインサート成形、かしめ、ねじ止めでは気密性が得られにくいことから性能面で十分ではないことが多く、また接着剤による接合、ポッティング剤による封止では、部品点数や工程が多くなることからコスト高が避けられませんでした。
これらの問題点を解消するため、2000年以降には金属表面にあらかじめ物理的な凹凸や化学的な親和性を付与した上でインサート成形することで、射出成形のみで金属と樹脂の接合界面に接合力や気密性を付与する技術が登場しました。しかし、本手法では多くの要因(金属部品、樹脂材料、金型構造、射出成形条件など)が接合性に影響を及ぼすため、安定した接合性を得ることは難しく、現状ではまだ量産に適用される事例は多くありません。そこで本稿では射出成形のみで金属・樹脂接合性を得るために注意すべき点について紹介します。

■金属樹脂接合技術によって得られるメリット
  パターン① パターン② パターン③
従来技術 アウトサート成形、接着、ネジ止め 接着、放熱シート O-リング
金属密着による嬉しさ 外観向上
(強度、意匠性向上)
機能向上
(放熱性向上)
新機能付与
(防水性付与)
アプリケーション例 金属への樹脂ボス接合
発熱体のヒートシンクへの放熱性
モバイル機器コネクターの防水性

1. 金属密着成功のポイント

金属インサート成形による金属・樹脂の直接接合の工程を図1-1に示します。
金属・樹脂の直接接合とは、あらかじめ適切な表面処理を施した金属部品に、射出成形によって溶融樹脂を流し込み、溶融樹脂が冷却・固化した際に金属部品・樹脂が強固に接合した部品が得られる工程です。このような工程では影響因子が多いため、安定した接合を得るためには図1-1に示す全ての要因(金属部品、樹脂材料、金型構造、射出成形条件など)を最適化する必要があります。以下ではそれぞれの要因について注意すべきポイントをまとめました。

■図1–1. 金属インサート成形による金属・樹脂の直接接合の工程

(1)金型表面処理

インサート金属を急加熱・急冷却することによって、金属側に特別な表面処理を施さなくとも金属インサート成形のみで金て当社より報告済み1)ですが、今回はこれまでに提案されてきたさまざまな金属表面処理手法の中から、急加熱・急冷却のシステムを必要としない金属表面処理技術を紹介します。
化学薬品を使用する処理としてはNMT2)、TRI、PAL-fit 3)などが、化学薬品を使用せずレーザー照射処理のみで表面処理を施す技術としてはレザリッジⓇ 4)、DLAMPⓇ などが実用化されています。各表面処理技術には様々な特徴があり、例えば、化学薬品を使用した表面処理はインサート金属全体を一様に処理しますが、レーザー照射による表面処理はインサート金属の一部を処理するというような特徴があります。各表面処理技術の詳細は当社発行のpla-topiaⓇ もしくは各メーカーサイトの情報を参照してください。

(2)樹脂材料

通常の金属インサート成形は、金属全体を樹脂で覆うような形状や、金属の一部に樹脂部が物理的に固定されるような形状とすることで接合性を確保してきましたが、インサート成形後の様々な環境変化(ヒートエージング、ヒートサイクル)の中で、金属・樹脂の線膨張差などに起因した接合性の低下が進むことが知られています。そのような成形後およびその後の環境変化に耐えられる良好な金属・樹脂接合を得るために、樹脂材料には次のような特性が必要です5)。

①作用(親和性): 射出~保圧~冷却~離型

 分子間力や水素結合などの作用により密着性を高めます。

②良好な表面転写性(流動性): 射出~充填

 金属表面の微細な凹凸へ隙間なく入り込み接合強度・密着性を高めます。

③低い成形収縮・金属に近い線膨張率: 保圧~冷却~離型後

 成形収縮・線膨張率を金属に近づけ、温度変化による界面の剥離を防ぎます。

■図1–2. 金属樹脂直接接合で必要とされる樹脂側要件

当社での実験結果に基づく解析結果を図1-3に示します。
横軸の表面転写性(数値が小さいほど表面転写性が良好)、縦軸の収縮率(数値が小さいほど収縮率が小さい)ともに相対値として無次元で示しました。
親和性改善剤とは金属・樹脂界面の親和性を良化する添加剤のことであり、樹脂中に均一分散し、かつ金属表面との密着性が高い成分が選択されています。
図1-3左図は親和性改善剤が未添加の際の接合性を示しており、標準的な材料はこちらに分類されます。標準的な材料でも、表面転写性および収縮率を最適化することで接合性を向上させることはできますが、それには限りがあります。図1-3右図は親和性改善剤が添加された材料の接合性を示しています。金属密着グレードはこちらに分類され、先に述べた樹脂材料に求められる3つの要件全てを満たした材料設計となっています。
前述の樹脂材料設計指針に従い当社が上市している金属密着グレードを表1-1に示します。
PPS、PBTそれぞれ標準的な金属密着グレードとして1135MF1および940MAを設定し、さらにそれぞれに付加機能を備えた金属密着グレードとして1150MF1および930MAを取り揃えています。現在も新たな要望に応えるべくさらなる新機能を備えた金属密着グレードを開発中です。

■図1–2. 金属樹脂直接接合で必要とされる樹脂側要件
■図1–2. 金属樹脂直接接合で必要とされる樹脂側要件
項目 試験方法 単位 ジュラファイド® PPS

ジュラネックス® PBT

1135MF1 1150MF1 930MA
標準 低そり 低誘電率
密度 1183 g/cm3 1.56 1.68 1.51
引張強さ 527-1.2 MPa 162 130 130
引張破壊ひずみ 527-1.2 1.9 1.7 3.1
曲げ強さ 178 MPa 227 190 195
曲げ弾性率 178 MPa 10500 12800 8800
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付) 179 KJ/m2 11 6.5 11
荷重たわみ温度(1.8MPa) 75-1 266 260 210
誘電率(1GHz) 3.8 4.1 3.4

(3)金型設計

前述樹脂材料の項で述べましたが、樹脂材料には②射出から充填の段階で金属表面の微細な凹凸へ隙間なく入り込むための良好な表面転写性(流動性)が求められます。表面転写性は樹脂の流動性が大きく関わる特性であり、樹脂・樹脂の会合部(ウエルド部)や流動末端部においては成形時発生ガスによる流動阻害が問題となる場合があります。樹脂の流動阻害によって接合性に問題が生じる場合は、適切な樹脂肉厚の設定やガスベントによるガスの除去が必要となります。

(4)射出成形

金属インサート成形による金属・樹脂の直接接合において、接合性は射出成形条件、特に金型温度の影響を強く受けます。このことは樹脂材料の項で述べた「良好な表面転写性」を得るため、および「低い成形収縮・金属に近い線膨張率」のための射出成形条件上の工夫と考えることができます。試験片での実験結果からは図1-4に示した通り金型温度以外の成形条件の接合性への影響は確認できませんでしたが、実製品においては上記二つの項目を達成するために金型温度以外についても成形条件の最適化が必要な場合があると考えます。

(5)品質管理

製品の量産においては、これまでに述べた各種条件の最適化とともに、実際に必要な接合性が得られているかのチェックも重要です。間接的に製造パラメーター(射出成形条件など)によって管理をする場合や、直接的に製品検査する場合があります。確実な品質管理のためには直接法が適していますが、間接法と比較して検査コストが新たに付加されることになります。直接法においてもオンラインで自動検査ができれば検査コストの低減が可能となるため、X線CT装置や超音波探傷装置などを活用したオンライン自動検査システムの実用化が待たれます。

■図1–4. 射出成形条件と接合性の関係

2. 接合強度データ

当社で実施した金属樹脂複合体の接合強度データを紹介します。接合強度は、図2-1に示すISO19095に準拠した金属・樹脂複合体試験片を使用し金属・樹脂間のせん断破壊強度を求めることで評価しました。金属にアルミ合金A5052、樹脂にPBT、PPSの標準グレードを用いました。結果を図2-3に示します。PBT、PPSともに金属表面に適切な処理を施さない場合、インサート成形で金属樹脂複合体を金型から離型する際に金属・樹脂の界面が剥がれてしまい、接合力は全く得られませんでした。一方、金属表面に適切な処理を施した場合には、初期の接合強度試験において樹脂表層部分が凝集破壊するほどの接合力が得られました。このことから金属表面に適切な処理を施すことにより、標準グレードを使用した場合でもPBT、PPSにおいては十分な接合力を得られることが分かりました。

■図2-1. せん断型試験片
■図2-2. せん断試験での破壊モード

界面剥離

界面剥離+凝集破壊

凝集破壊

■図2-3. せん断試験結果

3. 気密性データ

当社で実施した金属樹脂複合体の気密性データを紹介します。試験片として図3-1および3-2に示す2種類を使用し、金属にアルミ合金A5052(表面処理あり、なし)を、樹脂にPPSの標準グレードおよび金属密着グレードを用いました。気密試験にはヘリウムリークテスターを使用し、漏れ速度(Pa・m3/s)によって気密性の優劣を評価しました。結果を表3-1に示します。PPS標準グレードは金属表面処理有無にかかわらず、漏れ速度が5×10-5(Pa・m3/s)以上となり、良好な気密性を得られませんでした。また、PPS金属密着グレードを使用した場合も、金属側に適切な表面処理を施さない場合は同様に良好な気密性を得られず、金属側に適切な表面処理を施し、かつ金属密着グレードを使用した場合に漏れ速度が5×10-7(Pa・m3/s)以下の良好な気密性を得られました。
さらに表面処理を施した金属と金属密着グレードの組合せは、初期気密性に加えて耐久処理後の気密性も確認しました。いずれの耐久処理条件(ヒートサイクル1000サイクル、または高温高湿1000時間)においても漏れ速度の上昇は検出されませんでした。漏れ速度は試験片形状、試験片サイズによっても変わるのであくまで目安ですが、表面処理を施した金属と金属密着グレードの組合せであれば、実用的な気密性が得られることを示唆しています。

■図3-1. 円盤型
■図3-2. 端子型
■表3–1. 気密性評価結果
樹脂種 標準グレード 金属密着グレード
金属表面処理 なし あり なし あり
初期機密 × × ×
ヒートサイクル(-40 ⇔ 120℃) 500サイクル × × ×
1000サイクル × × ×
高温高湿(85℃ 85%) 500時間 × × ×
1000時間 × × ×

:漏れ量が 5 × 10-7 Pa・m3/s 以下  ×:漏れ量が 5 × 10-5 Pa・m3/s 以上

4. 金属密着技術の実用例と今後の予定

インサート成形による金属・樹脂の複合部品は以前から数多く存在しており、その外観から単なるインサート成形品か、金属密着成形品かを判断することはもはや困難です。これまでに報告されている金属密着技術を応用した量産事例として、各種モバイル部品(携帯電話、タブレット、デジカメなど)や一部の自動車関連部品があります。今後さらに応用事例を拡大させるためには、①接合メカニズムおよび②接合界面の品質管理指標を明確にすることが必要です。当社としてもエンジニアリングプラスチックのリーディングカンパニーとして本課題に継続して取り組んでいきます。

【参考資料】

1) pla-topia® 2008(1)
2) pla-topia® 2008(3),メーカーHP:http://taiseiplas.lekumo.biz/blog/nmt01.html
3) pla-topia® 2009(1)
4) pla-topia® 2012(1), メーカーHP:http://yamase-net.co.jp/wordpress/?page_id=24
5) 大西・依藤(2015),PPS金属密着,プラスチックスエージ(2015年6月号)

■ DURANEX®︎、ジュラネックス®︎は、ポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有している登録商標で、ウィンテックポリマー株式会社が許諾を受けて使用している商標です。

■ DURAFIDE®︎、ジュラファイド®︎は、ポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有している登録商標です。

■ Quick-10®︎は、ポリプラスチックス株式会社が日本で保有している登録商標です。

■ PAL-fit®︎は、ポリプラスチックス株式会社が日本で保有している登録商標です。

■ Laseridge®︎、レザリッジ®︎は、ポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有している登録商標です。

■ DLAMP®︎は、ダイセルポリマー株式会社が保有する登録商標です。