取組事例Our Approach

2018

Products

2018.10.31

DURACON® POMメタリック調自動車部品の開発

― 上海と富士の協業でノブとハンドルに取り組む ―

1.材料のプロモーション

2010年の終わり頃、上海で自動車の設計を担当するPan Asia Technical Automotive Center(PATAC)に対して、DURACON® POM メタリック調着色品の提案を行うことになりました。材料費の単純比較ではPC/ABS よりも不利になりますので、電着塗装工程をなくすことができれば塗装費用が不要になるだけでなく、歩留りが大幅に向上することもアピールしました。一般的な計算例となりますが、塗装ムラやごみの付着によって約20%の不良が発生すると仮定した場合、1.25倍の材料費と成形・塗装費が必要ですので、材料単価が2 倍になってもトータルコストは3 割以上削減できる可能性があります。

2.実機テストへの挑戦

大幅なコストダウンが可能となることから、PATACでの実機評価のチャンスを得ることとなり、強度試験等のための評価サンプルの確保に着手しました。1次請けモルダーが所有する金型を借用してサンプルを用意することも検討しましたが、量産中のPC/ABS用金型を用いた試作の機会を得られず、宝理工程塑料貿易(上海)が独自に評価可能な形状で金型を起工することになりました。流通している商品からハンドル形状を得て試作金型を上海で起工しましたが、初期型ではゲート位置・形状もPC/ABSと同じにしたため、POM試作品では著しいフローマークやヒケが発生しました。客先での評価用として適さないとの判断で、ゲート形状の変更に始まって肉抜きやR変更などを行い、メタリック調POM成形品を得ることができました。その過程で、China Technical Solution Center(C-TSC)所員がMoldflowを活用した充填パターンの確認や、成形条件の最適化などに取り組むことで、多くの外観不良対策を学ぶことができました。
評価サンプルは、富士のTechnical Solution Center(富士TSC)で行った構造解析の結果と合わせて、すぐに流通品と同じ実機試験に供されました。PC/ABSの機械物性を基準に設計された形状ですので、構造解析においても実機試験においても、POM成形品は良好な強度と耐久性があることが確認されました。ここで得られた実機テストの結果は、POMを前提とした製品設計を行うことで、さらなる軽量化の可能性を示唆するものでもありました。

図1:実機テスト用サンプルのゲート設計例
※青い色の部分から赤い部分にかけて充填が進行する(肉抜き穴によってウェルドライン(樹脂の会合部)が表面に形成されないようにゲートを配置)

3.新規量産形状での検討

DURACON POMメタリック調着色品による開発の目途が立ったことから、2012年末から実際に採用される車種での取り組みが本格化しました。PATACから提示された表面形状をもとに、裏面および中間のリブ形状を検討し、さらにはゲート位置の検討も行いました。ポイントは必要な強度を確保した上で、表面にウェルドラインやヒケを生じさせないなど、外観上の問題を未然に防ぐことでした。C-TSCと富士TSCで分担して作業を行い、強度を確保するためのリブ設計は比較的容易に完了することができました。しかし、意匠を優先させた表面のカーブを微妙に修正するのは大変で、充填パターン確認のための流動解析に膨大な時間を費やしました。ゲート位置を工夫するだけでなく、表側を少し厚くすることでウェルドラインを裏面に形成させることを提案し、改めてPATACで製品形状の最終検討が行われました。

図2:実機テスト用サンプルの構造解析例
※黄色部分が開閉動作によって力がかかる個所 (45,000 回以上の繰り返しに耐えることを確認)

4.量産形状のサンプル作製

PC/ABSとPOMの最終判断を行うために、量産が予定されているノブとハンドルについて、実際に射出成形された製品を用意することになりました。もちろん機械物性だけでなく、外観も良好である必要があり、すぐに量産できることを立証する必要があります。
ノブ、ハンドルそれぞれについて左右2個取りの金型を中国内で作製することにしました。ドアハンドルの経験が豊富な金型メーカーの協力を得て成形された試作品でしたが、ウェルドラインは想定通りに裏面に形成できたものの、一部にフローマークに起因する黒い筋が発生する不完全なものでした。そこで、成形トライを繰り返しながら、部分的なR 形状やキャビティ表面粗さを調整することで、ようやく提出可能なサンプルを確保することができました。

5.1次請けモルダーでの量産支援

POM メタリック調着色品で成形したサンプルの外観について、PATACから合格判断を頂いたことから、予定していた車種の一部のグレードでPOMが採用されることになりました。そこで、今度は1次請けモルダーでの量産金型起工と成形条件最適化を支援するよう要請されました。特に難しかったのはフローマークに起因する黒い筋の解消で、C-TSCが所有している高性能な電動射出成形機では再現性よく微速調整ができましたが、量産予定の旧式油圧成形機ではたびたび外観不良が発生しました。そこで、キャビティ表面粗さの微妙な調整を再度行って、再現性良く良品を得られる成形条件の確立に取り組みました。金型修正と試作を繰り返し、ようやく量産の目途が立ったのは2013年の初夏の頃でした。

6.POMメタリック調着色品のメリットと留意点

POMメタリック調着色品は、短期・長期の機械物性がPC/ABSよりも極めて良好です。従来の一般的な射出成形機を用いた成形が可能で、ペレット乾燥機や金型温調機などの周辺設備も特別なものを使用する必要はありません。ただし、アルミ顔料を含んでいるため、フローマークやウェルドラインが目立ちやすい欠点があります。フローマークについては金型温度を100℃以上にする、射出速度を遅くするなどの対策で改善できる可能性があります。しかし、ウェルドラインについては、成形条件の変更では改善できません。開発の初期段階からお客様とディスカッションし、ゲート位置や製品形状について十分な検討を行う必要があります。
また、金型の表面粗さによって、成形品の表面光沢が大きく変化し、メタリック調の印象が大きく異なることも分かっていますので、表面仕上げなどの金型仕様についても詳細な検討が必要です。つまり、製品設計から金型設計、さらには成形条件最適化まで含めた幅広い技術支援が必要な製品と言えます。しかし、C-TSCと富士TSCでは、2つの製品形状を通じた取り組みを通じて、技術レベルが大幅に向上しており、厳しい外観が要求される製品への技術展開も期待できそうです。

■ 「DURACON®」、「ジュラコン®」はポリプラスチックス株式会社が日本その他の国で保有する登録商標です。